出入りの職人  

                                               武藤清秀

 日中たまたま家にいると、いろいろなセールスの電話がかかってきたり、見知らぬ人が訪れてあれこれ宣伝(布教?)していく。それだけならまだしも、お節介にも瓦の葺き替え、外壁の張替え、中には建て替えの営業まであって、断るのもなかなか骨折りである。

 私はその道が専門であるから深入りはしないが、素人特に高齢者の住まいでは、相談できる相手が周りにいないと、そんな話に乗ってしまうことも多いようだ。知らない人から突然親切の声がかかる場合は、往々にして落とし穴がある。それが住宅のメンテナンスとなると、不要なあるいは未熟な工事が行われたり、法外な請求を受けることもある。

 体の調子が悪いときはかかりつけの医者にみてもらうように、家の具合が悪ければまず専門の職人にみてもらうのがよい。どこのお宅でもそういった出入りの職人はいたのだが、所有者の代替りで途切れたり、職人自身が高齢で後継者のいない場合もあって、建物のメンテナンスも容易ではなくなってきている。

 とはいえ、特に伝統工法で建てられた建物の維持は、やはり確かな技量の職人が行わないと建物の寿命を縮めることになる。幸い金沢にはそういった職人がまだ多くいる。(社)金沢職人大学校では、中堅以上の職人がさらに研鑽を積んでおり、日本の伝統工法で建てられた家を昔の工法で直すことができる。

 健康で文化的な生活をおくるためには、「かかりつけの医者」、「行きつけの店」、そして「出入りの職人」が欠かせません。


 

 柱を根継ぎする大工




 塗り壁を補修する左官




 塗り壁を補修する左官



       -------リトルトリガー 2007年2月号-------

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